大学所蔵品紹介

筑波大学考古学研究室では、前身校から多くの考古資料を収集・保管してきました。
その大学所蔵品の一部を写真とともに紹介しています。
なお、掲載画像の二次利用については、個人利用・教育研究利用の際は申請不要、商用利用・転載利用の際は申請を必要とします。


西田遺跡出土遺物(茨城県・縄文時代中期)

西田遺跡は茨城県笠間市に所在し、土器や石斧、石棒などとともに、多くの石鏃が出土しました。石鏃には黒曜石や瑪瑙(めのう)、チャートといった石が使われました。遺跡では石材が加工された痕跡も確認され、縄文時代中期に石鏃などを製作していた場所であったと推定されます。*1

 

 


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牛久Ⅰ号墳出土遺物(千葉県・古墳時代前期)

牛久Ⅰ号墳は、千葉県市原市に所在する古墳時代前期の古墳です。直径約18mの円墳で、二重口縁壺とよばれる土器が出土しています。埋葬施設は木棺と思われ、副葬品として鉄槍と銅鏃が出土しました。*2

 

 


甲山古墳出土遺物(茨城県・古墳時代後期)

甲山古墳は茨城県つくば市にある、直径約30mの円墳(または前方後円墳)です。2基の石棺が確認され、そのうち第2号棺からは大刀や鉄鏃、ガラス製の玉類などが発見されました。また、第2号棺ではひとつの石棺に4人もの人物が一緒に埋葬されていました。*3

 


馬形埴輪(出土地不明・古墳時代後期)

古墳には人や馬などをかたどった形象埴輪が並べられましたが、この馬形埴輪もそのひとつです。出土地等の来歴はよく分かりませんが、顔やたてがみの特徴から、6世紀後半に群馬県付近で製作されたと考えられます。*4

 


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文京区出土板碑(東京都・中世)

板碑とは、おもに供養のためにたてられた石碑のことで、写真の板碑は秩父で産出する石でつくられており、「武蔵型板碑」とよばれます。この板碑には天文3年(I534) の銘が刻まれていますが、銘には金箔が使用されていました。*5

 


タル・イ・ジャリA遺跡出土遺物(イラン・土器新石器時代)

タル・イ・ジャリA遺跡はイラン高原南西部、ファールス地方のマルヴ・ダシュト盆地に位置し、発掘調査の結果、紀元前6千~5千年紀にかけて居住された初期農耕集落であることが明らかになりました。遺跡からは彩文土器や石器に加えて、人や動物を模した土偶が出土しました。四足獣を模した土偶は新石器時代の西アジアで広く見られ、呪術などに使われたのではないかと考えられています。*6*7

 


タペ・サンギ・チャハマック遺跡出土遺物(イラン・土器新石器時代)

タペ・サンギ・チャハマック遺跡はカスピ海の南東、エルブルズ山脈の南麓に位置します。西丘と東丘で調査が行われ、紀元前7100年~5300年頃まで断続的に居住されていたことが明らかになりました。遺跡からはコムギなどの炭化種子、鎌刃、脱穀盆といった農耕を示すと思われる遺物や、100個体を超える人骨が出土しました。紀元前6400年~5300年頃に位置づけられる東タペで発見された彩文土器からは南トルクメニスタンやイラン高原中央部との深い繋がりが推察されます。*6

 


ウンム・クセイール遺跡出土遺物(シリア・土器新石器時代~イスラム期)

現在のシリア北部、ユーフラテス河の支流ハブール川の河畔にテル・ウンム・クセイール遺跡は位置し、東西2つの遺丘で形成されています。調査の結果、この遺跡ではおよそ紀元前5700~1300年までおよびイスラム期の断続的な文化層が確認されました。とくに紀元前5700~5500年頃に使用されたハラフ系彩文土器から得られた情報は重要です。これまで「キャンプ・サイト」と見なされていたこの遺跡が定住集落であり、天水農耕地帯で生まれたと考えられるハラフ文化の拡散がハラフ中期に始まることなどがわかりました。*6

 


クミナス遺跡出土遺物(シリア・先土器~土器新石器時代)

クミナス遺跡は、現在のシリア北西部、オロンテス地峡に位置します。先土器新石器時代および土器新石器時代の両時期に集落が営まれました。遺跡から発見された石器は製作技法や形態から紀元前7300~6500年に位置づけられ、シリア周辺の遺跡との近縁性を示しています。石器群では石刃が主体的で、鎌刃として用いられることもありました。遺跡からは多量の石刃を埋納した遺構も見つかっています。*8*9*10

 


参考文献
*1 筑波大学歴史・人類学系 1997『笠間市西田遺跡の研究―縄文時代における石鏃の製作と流通に関する研究―』
*2 松浦宥一朗・田中 裕 2003「牛久古墳群」『千葉県の歴史 資料編考古2』 千葉県史料研究財団
*3 筑波大学甲山古墳研究グループ 2019「つくば市甲山古墳の研究―調査報告編―」『筑波大学先史学・考古学研究』第30号
*4 荒井啓汰 2017「筑波大学所蔵の馬形埴輪」『筑波大学先史学・考古学研究』第28号
*5 鈴間智子 2013「筑波大学所蔵板碑について」『筑波大学先史学・考古学研究』第24号
*6 常木 晃・三宅 裕・津本英利・有村 誠・富田 徹・前田 修1998『筑波大学西アジア考古学調査の軌跡と収蔵資料』筑波大学総合科学博物館ニュース誌サプルメント
*7 Kuijt, I., and M. C. Chesson. 2004. Lumps of clay and pieces of stone: Ambiguity, bodies, and identity as portrayed in Neolithic figurines. R. Bernbeck and S. Pollock (eds.) Archaeologies of the Near East: Critical perspectives, Basil Blackwell, 152-183.
*8 Arimura, M. 2020 The Neolithic Lithic Industry at Tell Ain El-Kerkh. Tsuneki, A. and Hydar, J. (eds.) AL-SHARK 4 University of Tsukuba: Studies for West Asian Archaeology. Excavation Reports of Tell el-Kerkh, Northwestern Syria 1, Archaeopress archaeology.
*9 Masuda, S. and Sha’ath, S. 1983 Qminas, the Neolithic site near Tell Deinit, Idlib (preliminary report). Annales archéologiques arabes syriennes 33(1): 199-231.
*10 西秋良宏 1992「ナヴィフォーム式石刃生産技術と北シリアの先土器新石器時代」『ラーフィダーン= al-Rāfidān』13: 27-60.